ウェブゴルフコラム 第九回 (03,07,28)
「"パー"のもつ重みをおしえてくれたジ・オープン」
プロのトーナメントで、ダブルボギー、トリプルボギーという言葉をこれほど頻繁に耳にするのも珍しい。優勝スコアが1アンダーという、近年稀にみるシビアな戦いとなった今年の全英オープンでの話である。
タイガー・ウッズは、初日の1番、ロストボールの末にトリプルボギー、2日目には12番でバーディー逃しの4パットで"ダボ"。T.ビヨーンは、首位で やってきた最終日大詰めの16番でバンカーから脱け出すのに3打を費やして痛恨のダボ。その悪い流れを食い止めることができず、メジャー初出場の26歳、 B.カーティスに優勝を譲ってしまった。
日頃から"ダボ""トリ"に慣れ親しんでいる者としては、ラフやグリーンの上で顔をしかめるプロたちに親近感とあわれみ、と同時に「たまにはダッファーの悲哀を味わってみればいいさ」という意地悪な気持ちも湧いた。
結局、トップ5に入った選手で4日間ダボを叩かなかったのは、カーティスとD.ラブ?だけ(ちなみに日本人プレーヤーは8人で計27個のダボ以上を献上)。僅差の争いになるメジャーでは、やはりダボは大叩きの範ちゅう、それが命取りになるということだろう。
10年ぶりの開催となったイングランド南部のリンクス「ロイヤル・セント・ジョージズGC」は、多少曲がっても飛ばしておけば何とかなるというゴルフで はまったくのノーチャンス。無数のマウンドと傾斜のきついフェアウェイは、完璧と思えたショットも、ときにはプレーヤーをもてあそぶかのようにボールをラ フまで運んでしまう。それをプレーヤーは頭に血を上らせたり、落ち込んだりすることなく受け入れなくてはならない。そのうえ、センターを狙うことが必ずし も安全策とはいえないあのグリーンでは、2パット圏内に乗せるのにも苦労する。さらに、ボギーが先行し、ここで取り戻そうとピンをデッドに狙えば、ますま す深みにはまってしまうという悪循環。
「72ホールあれば、ボギーの3つや4つは出るもの」
初日ホールアウト後、冷静にそう語っていたタイガーも、理屈ではわかっていても、それを実行するのは難しかったようだ。最終日、フロント9ではコント ロール重視のティショットを見せていたのに、バック9でボギーが先行すると、フィニッシュでバランスを崩すほど振り回し、ショットを曲げた。勝てないとき のおきまりのパターンに今回もはまってしまったのだ。バンカーから直接放り込んだ3日目7番でのイーグルなど、派手さを見せたタイガーだったが、全体を振 り返ってみればやはり出入りが激しすぎた。"ピンチでは慌てず無理せず、そして好結果にも喜びすぎず"という姿勢が、メジャートーナメント、とりわけ長い 歳月がつくりあげた人智を越えたコースと厳しい自然を相手にしなければならないジ・オープンには欠かせない気がする。
ミュアフィールドで開催された1987年大会の最終日には、N.ファルドが18ホールすべてでスコアカードどおりにプレー、前日まで首位に立っていた P.エイジンガーを逆転して初優勝を飾った。それは、ファルドが自分のゲームプランを信じ、感情を制御しきった末の勝利でもあった。そして今年の王者カー ティスもこう語っている。
「今回は僕のスタイルに合っていたんだと思う。20アンダーを出さなければ勝てない試合ではなく、僕が得意とする"パーを取るゴルフ"で勝負ができたから」
これこそまさに全英オープンの本質を表したものだろう。めざすのはあくまでパーであり、チャンスが訪れたときにはバーディーを狙う。そして、大きなミスを犯してしまったなら、ボギーでよしとする勇気と潔さをもつ。
2ケタアンダーのトーナメントを見慣れてしまったいま、あらためて「パー=標準打数」のもつ重みを思い知らされたジ・オープンであった。
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