ウェブゴルフコラム 第一回 (02,08,28)
全米プロで見えた王国の底力
84回を数える全米プロの歴史のなかでも、今年ほど気候がクローズアップされた大会も珍しいだろう。初日、朝の雷雨でいきなりの中断。タイガー・ウッズに
いたっては、スタートホールのティーショットを打っただけでハウスに引き揚げた。プレーは2時間52分後に再開されたが、39人がホールアウトできずに日
没。2日目も、夕方になって再び激しい雷雨が襲った。中断された競技はその後再開されることはなく、2日続けてのサスペンデッド。メジャーにしては珍し
く、決勝ラウンドもスリーサム、アウト、イン両方からスタートすることが決まった。その3日目、天候は一変した。雷雨の心配は去ったものの、かわりにプ
レーヤーたちを苦しめたのが最大瞬間風速18メートルという強風。 |
天候悪化のサイン |
ちぎれんばかりに揺れるピンフラッグはひと月前の全英
オープンを思わせた。夏とはいえ、カナダ国境に接するミネソタの風は冷たく、セーターを着込んだ選手もいる。その点、連日35度前後の猛暑が続いた昨年の
ように、暑さとの戦いになることが多いいつもの全米プロとはずいぶん違う。前日の大雨で増水し白い波頭が立つ池も、プレーヤーにより圧迫感を与えたことだ
ろう。
とりわけ16番ホールでは、多くのプレーヤーが風の餌食になった。セカンドはショートアイアンの距離だったにもかかわらず、フィル・ミケルソン、ホセ・マ
リア・オラサバル、そしてタイガーといったアイアンの名手たちが打ったボールは、グリーンをかすりもしない。風を読み誤ったか、それとも風を意識しすぎた
のか。伊沢利光もグリーンを大きくオーバーさせて「7」を叩き、上位進出をあきらめることになった。
レティーフ・グーセン79、アーニー・エルス75、ビジェイ・シン74……、メジャーでの我慢くらべには慣れているはずの強者たちがスコアを崩すなか、ひ
とり60台をマークしたのが、テキサスで生まれ育ったジャスティン・レナード。
「風が吹いてコースがタフになればなるほど、僕はいい戦いができる」というスタート前の言葉どおり、低く抑えた球でコースを攻略。2位に3打
差をつけて首位に立った。レナードにはメジャー(97年全英オープン)での優勝経験もある。最終日も風が吹けば、彼がワナメイカー・トロフィーを抱く可能
性は高い。
だが……、風は吹かなかった。風とともにレナードは失速し、前日の強風をパットのうまさでしのぎ、この日すばらしいショットのキレを見せたリッチ・ビーム
が初のメジャータイトルを手にした。「もしも日本人がメジャーを獲れるとしたら、それは全米プロ」そんな声を聞いたことがある。おそらくそれは、他の3つ
のトーナメントにくらべ、コースセッティングがやさしいという理由からだろう。だが、今大会を見るかぎり、その言葉は空しく響く。 |
リッチ・ビーム |
全英オープンで5位に入り、いま日本人でもっともメジャーに近いといわれる丸山茂樹も、「距離感がまったく合わなかった。どのホールも向かい風に感じるし、このコースは理解できないよ」とヘーゼルティンの手強さを認めた。
全米オープンのときほどセッティングは厳しくないとはいえ、やはりメジャーはメジャーなのだ。終わってみれば、アンダーパーを記録したのは71人中8人だ
け。そのうち上位7人はすべてアメリカ人だ。たしかに地の利はあっただろうが、彼らは雷雨によるサスペンデッド、強風、そして快晴微風という条件をあるが
ままに受け入れ、コースを征服したといっていい。そして、メジャー挑戦わずか4戦目の選手が、そうした難コンディションのメジャーを制してしまうところ
に、王国アメリカの底力を見た気がする。 |