ウェブゴルフコラム 第八回 (03,07,01)
「ダンロップ快進撃の影に"クラブドクター"あり」
ご存じの通り、今年の国内男子プロゴルフツアーで"ダンロップ旋風"が吹き荒れている。まず、2戦目の「つるやオープン」で宮瀬博文が優勝。続く「中日 クラウンズ」でプロ4年目の星野英正が涙の初優勝を飾ると、2週後には片山晋呉が初めて「日本プロゴルフ選手権」のタイトルを手に入れた。さらに翌週の 「マンシングウェアオープンKSBカップ」では、宮瀬が早くも今季2勝目。この時点までで、ダンロップ契約プロが6戦中4勝という快進撃を見せたのだっ た。
スポーツについて語るとき、この国ではしばしば「心・技・体」という言葉が用いられる。そのうちのひとつ「技術」について考えてみると、道具の選択の多くが個人の裁量に委ねられるゴルフでは、道具の善し悪しがプレーに直結することも少なくない。
ダンロップ契約プロたちのクラブ開発を担当するSRIスポーツ・技術部スタッフのひとり、宮本憲一主査によれば、ここ2、3年でプロのクラブづくりは大きく変わってきたという。
「かつての私たちのサポートの仕方というのは、何十本という数のクラブを揃えて、その中から好きなクラブをプロに選んでもらい、それを調整す るのが基本でした。そこから、作る前にプロと一緒に考え、プロが望むクラブそのもの渡そうというスタイルに変えてきたんです。それがいま、実を結んできて いるのかなと思います」
現在の開発では、まず、ボールはプロに好きなものを選んでもらう。そして、そのボールを使って、プロが好む弾道と最大限の飛距離性能を引き出せるようなクラブを作るのである。
「たとえば、プロが『こんな弾道の球を打ちたい』と希望された場合、もちろんそれを尊重しますが、『飛距離を伸ばし、方向安定性を高めるため には、こういう弾道のほうがよりメリットがあります』とお話しすることもあります。そうしたコミュニケーションによって、共通の目標をしっかりと定めて、 それに向かってクラブをつくっていく。それが私たちの役割だと考えています」(宮本)
プロから最大の飛距離を引き出すために、人によっては弾道の好みさえ変えようとしているのだ。
では、今年優勝したプロたちのクラブはどうやって生まれたのか。ドライバーについて見てみよう。まず片山晋呉。彼は、昨年から世界、とりわけマスターズ を意識して、高い弾道で遠くに飛ばすことをクラブに求めた。高い球で、右から回していくような弾道は、キャリーが伸びただけでなく、ランもかなり出る。日 本プロや昨年12月の日本シリーズでも話題になったロングドライブは、打出し角とスピン量の最適な組み合わせから生まれたものだ。
また宮瀬は、昨年のゼクシオから、今年はスリクソンのプロトタイプにチェンジ。それは、飛距離アップに加え、より方向性を安定させるためだった。具体的 には、ヘッドを大きくし慣性モーメントも大きくすることで、以前は時々出ていた左に大きく曲がる球が影を潜めた。そして弾道も、理想的な高さに上がったと いう。
そして星野。もともと距離の出るほうではない彼にとって、飛距離アップは切実な願いだった。星野は現在、兵庫県芦屋に 住んでいることもあって、県内にあるダンロップ科学技術研究所を年に何度も訪れて試打テストを重ねた。星野の場合、距離の出ない原因のひとつは、彼の好み でもある低い弾道であった。そこで、打出し角を高くすることを目指してクラブの改良を重ねた結果、打出し角は、3年前の契約当初の9度から、現在は12度 にまで上昇。それによって去年のドライバーの平均飛距離は、一昨年に比べて15、16ヤードも伸びた。これは、ダンロップの契約プロの中でもいちばんの伸 び率である。その飛距離は、反発係数に規制が加えられた今年になっても落ちていない。テストを繰り返すことで、高い弾道にも慣れた星野は、いまでは「(打 出し角は)もっと高くてもいい」と口にするほどだという。これは、飛ばすための理想弾道と自分のフィーリングが合ってきたことを意味するものだ。「私たち は、プロ一人ひとりについて、以前からの試打データを蓄積してきています。だから、場当たり的ではなく、積み重ねてきたデータを生かしたクラブ作りができ る。プロには失礼な言い方かもしれませんが、我々とプロの方々とは、医者と患者のような関係を作りたいんです。何か問題があれば、過去のデータも見なが ら、すぐにベストの対処ができるようにしたい」
と宮本はいう。
プロゴルファーが、科学の助けを借りて、大きな飛距離を手に入れているいま、自分にとっての"飛ぶクラブ"とはどんなものなのか、アマチュアのみなさんも、より科学的な観点から考えてみてはいかがだろう。
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